講演要旨 このページを閉じる
基調講演「賢い患者になるために」
高久史麿(たかく・ふみまろ)
自治医科大学学長、日本医学会会長、東京大学名誉教授、国立国際医療センター名誉総長。
1931年生まれ。東京大学医学部卒。自治医科大学教授、東京大学医学部教授、東京大学医学部長、国立国際医療センター総長を経て、1996年自治医科大学学長に就任。2004年より日本医学会会長。
ベルツ賞第1位、日本医師会医学賞、紫綬褒章、日本医師会最高優功賞など、受賞多数。日本の医学界をリードする第一人者。

 私自身は、若いときに虫垂炎のために手術を受けた以外に病気らしい病気をしたことがない。虫垂炎以外の医療体験としては、数年来軽症の高血圧のために降圧剤を服用しているぐらいである。私は大学卒業以来臨床の講座に属していたが、直接主治医として患者さんの診療に当たったのはインターン生の時代と大学の内科の医局に入った直後の数年間だけで、その後、外来の患者さんを中心に診察を行い、入院患者に関してはもっぱら指導医として関与してきただけである。
 したがって「賢い患者」という今回の主題を論じる資格は私にはないと考える。しかし、折角の橋本理事長のご依頼なので私自身の経歴をご紹介し、その間に出会った印象深い患者さんのことを述べたい。その当時と臨床の現場を取り巻く環境は、現在とはまったく異なっているため、本日の主題の参考とならないことをご了解頂ければ幸いである。
 この他、最近『医師と患者の関係』として話題になっているEBM、医療情報の開示、医療事故などに関して、日頃考えていることの一端を述べたい。

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シンポジウム「賢い患者になるために」
市民の立場から コミュニケーションは患者と医師の協働作業
佐伯晴子(さえき・はるこ)
東京SP(模擬患者)研究会代表。
兵庫県生まれ。大阪外国語大学卒業。(株)インターグループにて国際会議事務局、通訳派遣業務。1988年〜93年イタリア・ミラノ滞在。国立ミラノがんセンター内のヨーロッパ緩和ケア協会事務局にてボランティア。1995年東京SP研究会設立。現在は同会代表。2001年より東京慈恵会医科大学総合教育日本語表現法担当。厚生労働省医薬食品安全対策医療用具部会委員、日本医学教育学会理事。
著書:『話せる医療者』『あなたの患者になりたい』(ともに医学書院)ほか。

 医療不信と言われるが、医療の専門家を信頼し安心してかかりたいと誰もが思っている。しかし、現実の医療現場は多忙を極め、医療者は休養もとれず非人間的な労働を強いられていることも多い。自分の健康を損ねてまで仕事に携わる医療者だけに、コミュニケーション不足を責めても解決の見込みは立たないだろう。一方で患者側は、その場でははっきり言わず後になって「○○してくれない、○○してもらえない」と文句を言うことがある。コミュニケーションとは、本来は「共通にすること」の意味で、ふたりの人間がお互いに歩み寄り理解していくことである。すると、患者側からも医療を受けるときに努力しておけば、コミュニケーションをよくできるのではないだろうか。コミュニケーションが協働作業であり、相互作用をもたらし、継続して行うプロセスであることをふまえ、患者側で工夫できること、注意しておきたいことを提案し、医療の受け手としてのあり方を一緒に考えてみたい。

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医療の現場を見て 情報の公開が医療現場を大きく変える
田中秀一(たなか・ひでかず)
読売新聞医療情報部次長。
1959年東京都生まれ。1982年慶応義塾大学経済学部卒業。読売新聞社に入社し、長野、松本支局、社会部、生活情報部などを経て、2000年から医療情報部次長。
1993年から長期連載「医療ルネサンス」を担当。

 「良い医師に巡りあいたい」「腕のいい医師の治療を受けたい」。病を得た人なら誰しも願うことだ。ある医師が患者にとって良い医師かどうかは、相性もあるので評価は簡単ではないが、治療の技術の評価はある程度まで可能だ。だが、そうした評価はこれまで十分行われてこなかったし、行われても情報が患者に公開されることはほとんどなかった。「良い治療を受けたい」という患者の願いに、医療側は積極的に応えてきたとは言えなかった。
 その医療現場が、大きく変わろうとしている。医療機関が手術件数などの治療実績のデータを公表し始めたことに見られるように、これまで患者の手元に届かなかった「情報の公開」に取り組み始めたからだ。もちろん、こうした情報にはさまざまな限界や課題もある。納得して治療を受けるため、これらの情報をどう生かせばよいかを考える。

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看護師の立場から おまかせでなく医療に積極的に参加する
西山悦子(にしやま・えつこ)
新潟大学医学部教授。
新潟県生まれ。聖路加看護大学卒業。聖路加国際病院を経て新潟市民病院勤務。1987年(財)ライフプランニングセンター健康教育サービスセンター、1994年(財)ライフプランニングセンタークリニック保健管理科主任を経て、1996年新潟大学医療技術短期大学部助教授。1999年新潟大学医学部助教授を経て、2003年新潟大学医学部教授(地域保健学)。
著書:『介護を支える知識と技術』(単著、中央法規出版)、『基礎から学ぶ在宅ケア』(共著、ライフサイエンスセンター)ほか。

 私は、以前クリニックで診察の介助をした体験から、考えたことを述べる。
 いのちを大切に守るためには、ただ有名な病院、高名な医師にかかればよいというものではない。「おまかせ」ではなく、医療に積極的に参加することが大切である。受診者がどのように上手に自分のからだの情報をうまく伝えられるかによって、問題がうまく解決されるかどうか決まってくるからである。上手に自分の健康情報を提供するポイントは、(1)病状は具体的に正確に伝える。「何が」「いつ」「どこに」「どう起こったか」という順番で伝えるとよい。(2)あなたが一番心配なこと、気がかりなことを中心にして話す。ほかの問題も手短に報告する。(3)初診の際には、詳しく十分病状を説明する。いま訴えたいいろいろな症状や、これまでにかかった病気、入院回数、手術、あなたの体質などを3分くらいで要領よく説明できるように整理をしておく。(4)いま他の医師にもかかっているのであれば、どんな病気でどこにかかり、どんな薬を飲んでいるかなどをメモして忘れずに報告すること、などである。日頃の健康状態を経年的にまとめておくとよい。

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医師の立場から 患者が主役になるため良き医師患者関係を築く
今中孝信(いまなか・たかのぶ)
天理よろづ相談所病院総合診療教育部非常勤医師、近江ふるさと会高齢者問題研究所長、医療教育情報センター理事。
1936年兵庫県生まれ。大阪大学医学部卒業。1976年以来、わが国で初めて天理よろづ相談所病院に導入された総合診療の中心となってその発展に寄与した。同時に、責任者を務めた総合診療方式による医師の臨床研修は、わが国における草分け的存在である。1984年同病院総合診療教育部長、1993年同院副院長を歴任して2000年定年退職。現在、同院総合診療教育部非常勤医師、社会福祉法人近江ふるさと会高齢者問題研修所長、医療教育情報センター理事。「健康」についても総合診療的な考え方を持ち、20数年にわたって自ら玄米食と早起きを実践している。
著書:『レジデント初期研修マニュアル』(共著、医学書院)、『健康に生き健康に病み健康に死ぬ』(天理教道友社)ほか。

 最近、診察のとき気になることは、いきなり検査を希望したり衣服を脱がない患者さんが少なくないことである。検査が治療に直結していると信じているからではないかと思う。
 診察は病歴聴取、身体診察、検査、説明、治療と続く一連の行為である。この流れのなかで、患者さんと医師は意思の疎通を図り、信頼関係を築いていく。
 医療の主体である生活習慣病は、原因療法をそのまま適応できない。病気をコントロールするために患者さんが主役になる必要があり、医師は援助者の役割を担う。それには良き患者医師関係が不可欠であり、患者さんの側も努力する必要がある。
 専門診療と総合診療の違いを知り、いつでも何でも相談できる「かかりつけ医」を身近に持つことが大切である。信頼できる「かかりつけ医」を育てるために患者さんはどうすればいいか、私の考えるところを述べたい。

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【司会】
橋本信也(はしもと・のぶや)
医療教育情報センター理事長、日本医師会常任理事、東京慈恵会医科大学客員教授。
1933年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学、大学院卒。東京慈恵会医科大学第3内科教授を1999年定年退任し、同大学客員教授となる。国際学院埼玉短期大学副学長、元気会横浜病院院長を経て、2003年医療教育情報センター理事長。2004年より日本医師会常任理事。
専門領域は内科学、膠原病、臨床免疫学、医学教育。
著書:『医療における心とことば』『最新医学略語辞典(第3版)』(以上編著、中央法規出版)、『健康と医療 用語事典』(共著、中央法規出版)、『診察診断学』(編著、医学書院)ほか。
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