講演要旨 このページを閉じる
〜基調講演〜
基調講演「新型インフルエンザを考える」
橋本 信也(はしもと のぶや)
医療教育情報センター理事長、東京慈恵会医科大学客員教授。
1933年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学、大学院卒。東京慈恵会医科大学第3内科教授を 1999年定年退任し、同大学客員教授となる。国際学院埼玉短期大学副学長、日本医師会常任 理事を歴任。2003年より医療教育情報センター理事長。
専門領域は内科学、膠原病、臨床免疫学、医学教育。

著書:『医療における心とことば』『最新医学略語辞典(第4版)』(以上編著、中央法規出版)、『健康と医療 用語事典』(共著、中央法規出版)、『新臨床内科学』『診察診断学』(以上編著、医学書院)、『よき医師養成を考える』(編著、篠原出版)、『医療の基本ABC』(監修・著、日本医師会)ほか。

  新型インフルエンザが流行している。もともとインフルエンザは毎年冬になると流行する病気であり、これを季節性インフルエンザと呼んでいる。原因はウイルスであるが、そのなかのA型というインフルエンザウイルスは、数十年に一度、新型になって地球規模の大流行を起こす。これをパンデミックと言い、20世紀にパンデミックのインフルエンザは3回起こった。
 大流行の後、人類はそのインフルエンザウイルスに対して免疫ができるので小流行になる。昨年までの季節性インフルエンザは、香港かぜ(H3N2)とソ連かぜ(H1N1)が共存して小流行を起こしてきている。
 近年、新型インフルエンザの大流行がそろそろ起こるのではないかと心配されていたが、本年4月下旬、メキシコでの発生が報告され、瞬く間に世界中に蔓延した。しかし、予想していたのは恐ろしい強毒性のトリインフルエンザであったが、実際はブタから伝播したものであった。これは伝染力は強いが、幸いにも病原性はトリに比べて強くない。だが、油断は禁物で、インフルエンザウイルスの性質上、ヒトからヒトへ感染が広がる間に、いつ強毒性に姿を変えるかわからない。
 今日の講演では、まずインフルエンザと風邪とはどう違うのかということからお話しし、次いで季節性インフルエンザと新型インフルエンザとはどう違うのかということを理解していただき、最後に現在流行している新型のブタA型(H1N1)について勉強したい。その後のシンポジウムでは、新型インフルエンザに対する対策、予防・治療、注意すべき合併症、そして現在の流行の状況について各講演者のお話を伺ったあと、参加されている方々からのご質問にお答えしたい。
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シンポジウム「新型インフルエンザと危機対策」
櫻井 勇(さくらい いさむ)
日本大学理事・名誉教授、医療教育情報センター理事、日本病理学会名誉会員・病理専門  医・病理専門医研修指導医。
1933年岩手県生まれ。日本大学医学部卒。日本大学教授、同大学医学部長を経て1999年より 同大学名誉教授。2005年より日本大学理事。
専門領域は病理学(心臓血管病理学・診断病理学)。
著書:『医系病理学』(共編、中外医学社)、『新病理学総論』『新病理学各論』(以上監修、日本医事新報社)ほか。

 日本は明治期に統一され、戸籍がつくられて、全員が義務教育を受けられるようになった。上下水道も整備され、国民の衛生意識も高くなり、島国だから外来伝染病を防ぎやすかった。そうしたなか、強毒性トリインフルエンザウイルスが来るのではないかと心配していたら、ブタインフルエンザがやって来た。
  ブタは空を飛ばないが、人間が世界を飛んで歩く時代となっていたのだ。手洗い・うがい・マスクなどで防ごうとなったが、学校などでは学級閉鎖などをして対応している。自宅待機といっても若者は外出していたいらしく、カラオケ屋が満員になったという。学校側も学級閉鎖にすれば、それで責任はすんだと思ってしまうらしい。無症状の潜伏期であっても感染源になるのだから、他者への思いやりが肝要だ。思いやりは自分のためにあるのではない。他人のためにあるのだ。
 「乳幼児はウイルス脳症になることがあるので、救急受け入れを整備しろ」と言うが、熟達した小児科専門医を育成するには高校卒後15年はかかる。専門医制度が整備されていないので、小児科医になろうという若者は少ない。危機管理とは、いつ来るか予測できない危機に対し、無駄に終わるかも知れない準備を日頃から行おうということなのだ。
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シンポジウム「新型インフルエンザの予防と治療―セルフケアを中心に―」
今中 孝信(いまなか たかのぶ)
天理よろづ相談所病院総合診療教育部アテンディングドクター、近江ふるさと会高齢者問題研究所長、医療教育情報センター理事。
天理よろづ相談所病院総合診療教育部アテンディングドクター、近江ふるさと会高齢者問題研究所長、医療教育情報センター理事。  1936年兵庫県生まれ。大阪大学医学部卒。天理よろづ相談所病院総合診療教育部長、副院長を経て、2000年定年退職。1976年以来、わが国で初めて同院に導入された総合診療の中心となってその発展に寄与した。同時に、医師の卒後臨床研修の責任者を務め、総合診療方式による研修を定着させた。健康についても総合診療的な考え方を持ち、30年余にわたって玄米食と早起きを実践している。
著書:『健康に生き 健康に病み 健康に死ぬ』『生き方が健康を決める』(いずれも天理教道友社)ほか。

 ブタインフルエンザが人から人に感染するように変わった新型インフルエンザは、2009年4月よりメキシコから世界に拡がり、現在も終息していない。
  新型インフルエンザの予防と治療の根幹をなすのは、ワクチンの接種と発病早期にタミフルやリレンザを投与することである。ワクチンは製造に時間を要することから、海外からの輸入も検討されている。タミフルの備蓄はあるが、自宅療養で回復しうる健康な人も含めて医療機関に集中すると、リスクを持ち重症化しやすい人が医療を受けられなくなる。
 現在、コンビニ受診やモンスターペーシェントが問題になっているが、医療は国民の共有財産として守らねばならないことを、新型インフルエンザの対応でも問われている。幸い、新型インフルエンザは鳥インフルエンザと異なって死亡率はそれほど高くなく、季節性に流行する通常インフルエンザと予防と治療の面で大きな違いはない。
 そこで、個人的に実行できる予防方法、インフルエンザにかかったときの受診方法、他人に移さないためのエチケット、自宅療養のポイントなどについてセルフケアを中心に述べたい。
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シンポジウム「新型インフルエンザの合併症とその対策」
庄司進一(しょうじ しんいち)
城西病院病院長、筑波大学名誉教授、日本内科学会認定内科専門医、日本神経学会認定神経専門医、医療教育情報センター理事。
1942年東京都生まれ。東京大学医学部卒業。信州大学医学部講師・助教授を経て1992年から2005年まで筑波大学教授(神経内科)。2005年より城西病院病院長。
専門分野(主研究領域)は内科学、神経内科学、筋疾患学、スポーツ医学、生命倫理学、緩和医療学、コミュニケ―ション学、など。
著書:『筋疾患の診断と治療』(永井書店)、『プライマリケア/主要疾患』(医学評論社)、
『生・老・病・死を考える15章─実践・臨床人間学入門』(朝日新聞出版)、『死の臨床とコミュニケ―ション』(人間と歴史社)ほか。

 インフルエンザ肺炎、細菌性肺炎、慢性気管支炎や喘息の増悪などの肺障害の他では、どのような合併症が一般的にみられるのか。
 副鼻腔炎、中耳炎が小児で合併する。筋炎、横紋筋融解症、ミオグロビン尿症も起こる。心筋炎、膵臓炎が1918年−1919年の大流行で認められた。また、心電図異常は、以前からあった心疾患の感染による増悪所見であることが多い。
 脳炎、横断性脊髄炎、ギラン・バレー症候群などの合併も報告されている。黄色ブドウ球菌やA型連鎖球菌の感染合併で、細菌の外毒素による中毒性ショック症候群が起こる。後者は高熱、消化器症状、神経症状、皮膚症状などの急性全身症状と肝・腎障害が起こる。
 免疫細胞がウイルスを攻撃するためにサイトカインが過剰に分泌され、血液中の物質が血管の外に漏れやすくなり、意識障害やけいれんなどが起こる。幻覚や異常行動なども報告されている。幼児に多く、アジア人は欧米人より脳症になりやすいようである。新型インフルエンザが季節性インフルエンザより脳症を起こしやすいかどうかはまだ不明である。また、ライ症候群は小児にみられる急性脳症で、発熱時のアスピリンなどの解熱薬の使用が原因であると考えられている  
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 ニュースで見る新型インフルエンザ」 

田中 秀一(たなか ひでかず)
読売新聞社医療情報部部長  1959年東京都生まれ。1982年慶応義塾大学経済学部卒。読売新聞社に入社し、長野、松本支 局、社会部、生活情報部などを経て、現在、医療情報部部長。  1993年から長期連載「医療ルネサンス」を担当。

 新型インフルエンザについて、どのくらい悪性度が高いものなのかなどの情報に混乱がある。致死率に関して、季節性インフルエンザより高いという報告がある一方で、南半球では流行の規模は季節性インフルエンザ並みだったが、死者数は例年よりかなり少なかったという報道もある。
 治療薬タミフルについては、米国では「重症者に使用(軽症者には不要)」とされているのに対し、日本の学会は「重症、軽症を問わず早期に服薬する」としている。さらに、医療機関の診療体制を巡って、「妊婦の診療ができない病院が多く、不安がある」という報道の一方で、「流行のピーク時でも入院病床には余裕がある」といった報道もある。  
新型インフルエンザは人類の脅威なのか、それほど深刻に考えなくてよいものなのか。流行が本格化した時、医療現場は十分に対応できるのか。流行に備えた適切な対処の仕方を考える。
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