講演趣旨

【基調講演】現代の養生訓
−未病クリニック−

橋本信也(医療教育情報センター 理事長)

医学医療の進歩により人間の寿命は延び、わが国は世界一の長寿国となった。しかし、いまだ克服できない病気も多い。わが国の成人の死因は、がん・心臓病・脳卒中が上位を占めているが、こうした病気に共通する危険因子は、日頃の生活習慣によるところが大きい。
「日頃の心がけを大切にして、日々の養生を習慣にする」ことを諭した貝原益軒の養生訓は、21世紀における国民の健康づくり運動として策定された「健康日本21」に通じるものがある。そこで今回は、栄養・食生活、アルコール・たばこ、身体活動、こころの健康といった養生訓を、あらためて見直してみることにしたい。
また、病気になる前に現れるいろいろな身体の症状をよく知っておくことも大切である。「体がだるい」「おなかが痛い」「咳が出る」「頭が痛い」「めまいがする」などのポピュラーな症状について、将来の病気を防ぐ意味で「未病クリニック」として考えてみたい。
(はしもと のぶや)
医療教育情報センター理事長、東京慈恵会医科大学客員教授
1933年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学、大学院卒。東京慈恵会医科大学第3内科教授を1999年定年退任し、同大学客員教授となる。国際学院埼玉短期大学副学長、日本医師会常任理事を歴任。2003年より医療教育情報センター理事長。
専門領域は内科学、膠原病、臨床免疫学、医学教育。
著書:『医療における心とことば』『最新医学略語辞典(第4版)』(以上編著、中央法規出版)、『健康と医療 用語事典』(共著、中央法規出版)、『新臨床内科学』『診察診断学』(以上編著、医学書院)、『よき医師養成を考える』(編著、篠原出版)、『医療の基本ABC』(監修・著、日本医師会)ほか。



【シンポジウム】健康に生きる
生き方が健康を決める

今中孝信(元・天理よろづ相談所病院副院長)

 電波の怪物と呼ばれるM氏は、人気のある健康生番組の司会を20年近く務めている。睡眠時間は約3時間で酒が大好きであるが健康を維持し、持ち前のゲンキさを失わない。
 健康は一人ひとり違う。WHOの定義にあるように、身体・こころ・社会、それぞれの健康を考える必要がある。そうしたなか、もっとも重要なことは、いくつになってもやりたいことがあることだと私は考えている。自分のしたいことができれば健康と言える。
また、現在の健康ブームは身体の健康一点張りであるが、社会の健康にも目を向けるべきである。それには、人のためになることを率先して行うことが大切である。ちなみに、70歳以上の人では、家事を含むすべての社会貢献の時間が長い人ほど、長生きになり寝たきりにならず、また、認知症にもなりにくいことが示されている。
演者が長年、総合診療(全人医療)に携わってきた経験をもとに、生き方と健康、医療と養生、生老病死と健康などについて述べてみた。

(いまなか たかのぶ)
天理よろづ相談所病院総合診療教育部アテンディングドクター、近江ふるさと会高齢者問題研究所長、医療教育情報センター理事。
1936年兵庫県生まれ。大阪大学医学部卒業。1976年以来、わが国で初めて天理よろづ相談所病院に導入された総合診療の中心となってその発展に寄与した。同時に、責任者を務めた総合診療方式による医師の臨床研修は、わが国における草分け的存在である。1984年同病院総合診療教育部長、1993年同院副院長を歴任して2000年定年退職。現在、同院総合診療教育部アテンディングドクター、社会福祉法人近江ふるさと会高齢者問題研究所長、医療教育情報センター理事。「健康」についても総合診療的な考え方を持ち、30年近く自ら玄米食と早起きを実践している。
著書:『レジデント初期研修マニュアル初版』(共著、医学書院)、『健康に生き健康に病み健康に死ぬ』(天理教道友社)ほか。


動脈硬化もストレスから

櫻井 勇(日本大学名誉教授)

 がんと動脈硬化による病気が増えたと言われる。だが、これらの病気は成人病なのだから、高齢者人口が増えれば当たり前のことである。
 動脈硬化には多くの原因がある。なかでも、高脂血症・高血圧・糖尿病・喫煙・肥満などはよく知られている。アメリカでは、以前からホワイトカラーの人はブルーカラーの人より心筋梗塞の発症率が高いと言われていた。これには、精神的・心理的ストレスが関係しているようである。責任感や使命感の強い人、きちんと計画を立てそれを実践しないと気がすまない人、正しいと思う自分の考えに反対されると癪にさわる人などは、A型の性格を持つと言われ心筋梗塞の発症率が高いそうである。
 さらに、精神的ストレスは機能的に動脈を縮める。動脈が縮むと、血圧が上がるばかりでなく動脈の内皮細胞に傷害が起こり、それがたび重なると器質的な動脈硬化を引き起こす。また、ストレスを避けよう避けようと心配するのも、ストレスになる。それゆえ、ときには心からのんびりとしよう。

(さくらい いさむ)
日本大学理事・名誉教授、医療教育情報センター理事、日本病理学会名誉会員・病理専門医・病理専門医研修指導医。
1933年岩手県生まれ。日本大学医学部卒。日本大学教授、同大学医学部長を経て1999年より同大学名誉教授。2005年より日本大学理事。
専門領域は病理学(心臓血管病理学・診断病理学)。
著書:『医系病理学』(共編、中外医学社)、『新病理学総論』『新病理学各論』(以上監修、日本医事新報社)ほか。


ぼけないために

福間誠之(元・明石市民病院院長)

 人口の20%を65歳以上の高齢者が占める超高齢社会になった日本では、年齢とともに増加する認知症が大きな社会問題となってきた。1980年には、呆けた老人を抱える家族が中心となって全国的な組織「呆け老人を抱える家族の会」が発足され、そうした家族を支えるとともに社会にも積極的に働きかけてきた。また、2004年10月には、国際アルツハイマー病協会の第20回国際会議を京都で主催したが、そこには世界各国から患者本人を含めて研究者・医師・看護師・ソーシャルワーカーなど4000人以上の人が集まった。さらに、同年12月には、国として公式に“痴呆”から“認知症”にその用語を変更し、世間からも注目されるようになった。
 そこで、認知症とはどんな疾患で、その原因としてはどういったものが考えられるのか、その治療はどのように行われているのかという最近の知見について解説し、昨今の関心の的である「予防はできないのか」ということについてふれてみたい。

(ふくま せいし)
特別養護老人ホーム洛和ヴィラ桃山 医務室 医員、医療教育情報センター理事。
1934年旧満州生まれ。京都医科大学卒業。京都第一赤十字病院脳神経外科部長を経て、
1993年より明石市立市民病院院長。2000年より介護老人保健施設洛和ヴィライリオス施設長。
2001年より京都府立大学大学院福祉社会学科講師。2005年より京都橘大学看護学部講師。
2004年より特別養護老人ホームヴィラ桃山医務室医員。
専門領域は、脳神経外科、医事法学、死の臨床研究、医学教育、生命倫理学。著書:『臓器移植法ハンドブック』(共編、日本評論社)、『往生考−日本人の生・老・死』(共著、小学館)『脳死を考える−新しい医療倫理を求めて』(日本評論社)ほか。



働く人の健康−労働と生活の調和−

徳永力雄(関西医科大学名誉教授)

 近年のIT社会とグローバル化は、労働の高密度化、労働時間と職場の流動性・多様化をもたらし、定まったところで昼働き夜は休んで眠るという自然の摂理にしたがった旧来の生活習慣を守ることを困難にしている。その結果、労働者ばかりでなく一般の人々も、よほど注意深い配慮をしないと健康な生活を維持できない世の中になった。
 ストレス性疾患・うつ・自殺・過労死などは、このような社会の変化に伴う警鐘である。たとえば、青年期は人生で最も健康な時期であるが、 特定の条件下で職業病が起こることはよく知られている。職業病と無縁の人でも、40年、50年におよぶ労働期・青壮年期の過ごし方によって、老後の健康が大きく左右される。
 働くことで健康を害せず、定年後もできるだけ元気で生きたいと願うのであれば、私たちの今の働き方と生活の仕方を大いに工夫する必要がある。健康な心身を手段として価値ある人生を送るために、1日24時間をどう使うのか、何のために働いているのか、毎日の仕事や家庭生活はどうあるべきなのかなどについて、事例とともに考えてみたい。

(とくなが りきお)
関西医科大学名誉教授、同常務理事、医療教育情報センター理事。
1936年鹿児島県生まれ。京都大学医学部卒業。京都大学医学部助手、京都工場保健会部長を経て、1978年〜2004年関西医科大学衛生学教授。
専門領域は、衛生学・公衆衛生学(特に産業医学)。
著書:『産業医学実践講座』(編集委員長、南江堂)、『医学医療教育用語辞典』(編集委員長、照林社)ほか。



医療・健康情報をどう利用するか

前野一雄(読売新聞社医療情報部部長)

 高齢社会が進むにつれ、国民の医療・健康への関心が高まり、日々の新聞記事やテレビ番組などでは、医療・健康についての最新情報があふれている。だが、その内容は「どこの医療機関や医師が信頼できるか?」「どうすれば健康でいられるのか?」といったストレートな実用情報が目立っている。
 こうした事象は、国民ニーズの反映と言える一方で、その背景には、健康生活への欲求が高まるなか、医療サービスの量(配分)がてんでんばらばらなら、医療の質も玉石混淆の状態にあることに気づき、“選ぶ医療”の大切さが認識されてきたことが挙げられる。しかし、国民は明確な選択の基準を持たないため、氾濫する情報のなか、不安と混乱を増長させている。
つまり、正確な医療・健康情報を取捨選択して、どう賢く利用するのか……。峻別と応用する力量が試されているのである。情報の的確な共有は、患者のみならず、患者との健全な関係を願う医療側にとっても欠かせない基盤だ。

(まえの かずお)
読売新聞東京本社編集局医療情報部長。
1952年東京都生まれ。横浜国立大学卒業。読売新聞社富山支局、科学部を経て、長期連載「医療ルネサンス」開始時から取材班に専従。医療情報部デスクを務めた後、2004年9月より現職。読売新聞日曜版の医療・健康コラム「健考note」を2003年末まで4年半にわたり執筆。その他、日本医師会広報戦略会議委員(2004年8月〜2006年3月)、日本小児科医会理事(2004年〜),日本看護協会広報委員会委員(06年6月〜)など。
1982年に「赤ちゃんのために ―障害児の予防と治療」で第1回アップジヨン医学記事賞特別賞。1994年「医療ルネサンス」取材班として新聞協会賞、1996年に44回菊池寛賞を受賞。著書:「『健康常識』ウソ・ホント55」(講談社ブルーバックス)、「脳動脈瘤がある人の不安と選択―脳ドック&脳卒中完全ガイド」(三五館)ほか。